企業データ
C社 資本金:3000万円 年商:8億円 社員数:100名 業種:建物管理業、機器販売業
状況:粉飾決算による借入過多、新規事業の投資回収ができない
原因: アイデアマンの創業社長により大手上場企業と共同開発した通信機器を販売しようと多額の融資を受けたが、制作販売計画自体が頓挫してしまい融資返済ができなくなった。資金流用により既存事業の資金繰りにも大きな影響を与えていた。
当社は、アイデアマンの社長が脱サラしてできた会社で建物管理業を行っておりビジネスモデル的に多額の運転資金を必要とする会社ではなかった。
大手企業との共同開発の通信機器を販売することで会社を次のステージへと飛躍させる予定であった。
しかし建物管理業以外のビジネスを行ったことが無く、機械メーカーとしてのノウハウがないため在庫管理、研究開発費用の投下限度、営業社員の不足、アフターフォロー体制など構築できず大手企業との関係悪化により通信機器の販売自体が頓挫した。
資金管理、社員管理体制も本業と新規事業であいまいになっており本業の利益を食いつぶしている状態が続いていた。
◆相談時に示した再生方法
銀行返済のリスケジュール新規事業撤退既存事業の立て直し既存事業の売却
◆ご相談から再生まで
ご相談資金繰り、損益状況把握簡易改善計画作成、リスケジュール実行【ここまで5ヶ月】新規事業の投資回収可能性判断既存事業の内部精査、価値判断【ここまで8ヶ月】スポンサー企業の選定【ここまで12ヶ月】既存事業の事業譲渡【ここまで18ヶ月】
1.新規事業による経営の失敗
理系出身の創業社長が順調に経営していた建物管理業に飽き足らず、大手上場企業と組んで通信機器開発に乗り出した。
大手企業もその分野で競争を繰り広げており創業社長のアイデアに共感し共同開発することとなった。 大手企業からの研究開発金もあったが、当社で銀行借入れを行い、外注の研究所などを使いどんどん投資拡大していった。
投資の甲斐があり大手企業ブランドで製品発売までこぎつけたが、別の競合の大手企業に後れを取り売上は投資を回収できるレベルではなかった。
在庫も大手企業ではなく当社によって抱える契約となっていた為、研究開発資金として借入れた2.5億円とは別に、在庫資金として2億円、合計で4.5億円の残高となっていた。
しかし販売競争に負けたことが明らかになると大手企業は事業からの撤退を決め販売子会社を解散させるなど、当社との関係を清算してきた。
この間、既存事業の社員を新規事業で働かせ、資金流用も行っていたので、社内は混乱しており、目の前の既存業務をこなすことすらできない状態になってきていた。
既存社員は、新規事業を始めたせいで会社が倒産しそうになっていることに腹を立て、退社する社員も出てきており、新規事業にかかわる社員との溝は修復できる状態ではなくなっており、既存事業のクライアントへも迷惑をかける結果となっていた。
創業社長は損失を補てんするため大手企業へ建物管理案件を受注し、様々な名目で2000万円程度の回収はできたが、借入返済に対して不足するものであったため、不安と後悔から出社する時間が短くなってきており、会社が迷走し始めていた。
顧問弁護士、顧問会計士への相談も繰り返したが「破産」以外考えられないとの回答でどうすることもできない状況で時間だけが過ぎていった。
2.ハードなリスケジュール交渉
販売計画は完全に頓挫し、既存事業の利益から返済は続けていたが、半年に一度の社債償還時には月額返済と合わせ3000万円の資金を用意せねばならず、追加で1500万円銀行から借入、創業社長の個人資産を3000万円程度投入していた。
しかし資金ショートが目の前に迫ってきたため、全行リスケジュールを申し込みに同行した。 ここまでに5か月程度あり計画書を作成したうえで訪問したのだが、既存事業だけを残した返済では到底返しきれるものではなく何度銀行に訪問したところで承諾を得ることはできなかった。
その間に返済延滞が発生し銀行からの追及も厳しくなっていった。
担当者や担当部署がどんどん変わっていく中で、メインバンクがリスケジュールに前向きになってきたことでサブバンクも態度を軟化させてきていた。 それは新規事業への融資が大手上場企業との共同開発、共同販売といった後ろ盾があったために行われた部分もあり貸し手責任も少なからずあるということでの対応であった。
そこで3か月ごとに更新するリスケジュール契約を結び、既存事業の立て直しに全精力を注ぐことになっていった。
3.既存事業の精査、新規事業の停止と給与遅配
すでに社員間の溝は大きく、新規事業の社員を既存事業に充てようとするも受け入れる状態にはなく退社することになる。
新規事業は社長が清算に向けて携わっているだけで実質的には事業停止となった。
ここからガタガタになった既存事業の精査と回復に取り組んでいく。 建物管理業はクライアントと契約する時点で売上、原価、利益が確定しおり複数年契約で結ぶことが多いため数年分の資金繰りも把握することができた。
しかし過去の契約金額を精査すると契約更新ごとにクライアント単価は下落しており、数年で到来する再契約で収益が残らない状況になることが分かった。 しかも独立系の建物管理業であるため新規受注することも困難であり売上の増加を見込むのは難しい状況であることも分かった。
そんな中、税務調査があり雇用形態に問題があるとの指摘を受ける。 数年前の税務調査でも指摘を受けたことでもあり数百万円の納税が発生し、社員給与を支払う余力がなくなってしまった。
社長が金策に走り当日中には給与振り込みをできたものの、社員の家族からの不信感も増大してしまい、完全に社内をコントロールできない状態になってしまった。
4.既存事業の事業譲渡
建物管理業は定期業務を行うことは年間スケジュールで決まっており、業務自体は滞りなく進んでいたが、社員はクライアントを引き連れてライバル管理会社に転職しようと考えるようになっていた。
会社が空中分解することは目に見えており企業価値が残っているうちに事業譲渡をし、全社員が安定した資本の下で仕事を続けるべきではないか?と議論を重ねた。 その結果、資金ショートまであと半年もないという時点で事業譲渡を決定した。
M&Aコーディネートは当社に15%程度資本参加していた大手金融会社に依頼し、候補先6社と順次交渉を重ねたが、いずれも社員の大幅リストラや事業分割での買収であったため交渉がまとまらなかった。
資金ショートまでのタイムリミットが近づく中で他府県の同業社が決定した。この県に進出するのにちょうどいい買収案件との判断で、社員、業務、クライアントすべて現状のままで受け入れるので新会社を立上げるというものであった。
ここで問題になったのが融資残高のある銀行で、既存事業を続けるからリスケジュールに合意したにもかかわらず事業譲渡で実質的に倒産させるとは到底承諾できない、スポンサー企業に融資肩代わりを要求してきました。
融資を引き継ぐくらいならスポンサーが買収するはずもなく、倒産して資金回収できないくらいなら事業譲渡代金でわずかながら回収した方がいいとの判断でM&Aは完了しました。
5.創業者のその後
全社員を現状のままスポンサーの新しい会社へ引き継ぎ、実質倒産した会社の社長として残務処理を続けていました。
連帯保証人として債務を返済しなければならず担保処分など手続きも進めていました。 しばらくして、投資だけして回収ができなかった通信機器の技術を転用して活用したいという会社が現れ、創業社長はそこに顧問として入ることになりました。技術は特許として保有していた部分もあり声をかけてもらえたのです。
無計画な投資で会社は事業譲渡されましたが、今は持っている技術を世に広めるために日本中を駆け回っておられるようですし、事業譲渡された以前の部下ともたまに連絡しあい近況報告しあっているとのことです。
再生には、会社の再生、人の再生いろいろな切り口があると思います。 この創業社長のように債権者に多大な迷惑をかけたことは反省し責任を取ったうえで、次のステップに行くことができるのも再生だと思いました。
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